文・撮影 ちょい旅ライター 水田ウタコ
1日8,000歩以上歩こうと決めている水田ウタコが、北近畿周辺の施設や飲食店に出向いて、見たこと、感じたことを自由につづる「ちょい旅」紀行。第8回の舞台は兵庫県丹波市市島町。グルテンフリーカフェや多肉植物のお店など、ヘルシーでエコロジカルな店を探訪。張りつめた気持ちを緩めてくれるグリーンに囲まれ、料理に注ぐ店主おふたりの熱量がみなぎるごはんを頂き、気力も馬力も充電できる1日となった。(ちなみにこの日の歩数は4,797歩。寒い季節はなかなか歩数を稼げませんね)。
ルネサンス絵画のような美しさ!
ふたりの魔術師が創り出すランチ
このご時世で、悲しいかな友人とランチする機会も激減してしまった昨今。一人で食べるごはんも、画面越しにお酒を飲むのも楽しんだけれども、一緒にごはんたべながらぺちゃくちゃ話すことでしか得られない栄養素もある。
普段、オンラインでは頻繁にやりとりしているものの、なかなか一緒にランチする機会がなくなってしまったイシワタマリちゃん(山山アートセンター代表)に誘われ、ほんの少し春の気配を感じるある日、一緒にランチをすることに。 向かったのは市島町にある、come Cafe hana*(コメカフェハナ)。
福知山から国道176号線を南に進み県境を越えるとほどなくして、come Cafe hana*の小さい看板が見えてくる。看板が見えてから左折をしようとすると、なんと実はもう通り過ぎているというトラップ。毎度まんまとこのトラップに引っかかり看板を通り過ぎてしまい、Uターンして戻るのが私の通過儀礼。 小さな看板の手前を左折して、集合住宅の前の道を道なりに進むと、レンガ作りのロマンチックな立派な建物が見えてくる。
ここはもともと西山酒造場のグラッパ(ぶどうの搾りかすを発酵させて作る蒸留酒)の工場として使われている建物なのだそう。Come Cafe hana*はその一角で営業している。
店内に入ると、大きな窓から広がる外の景色がうわっと視界に飛び込んできて、一瞬でまるで草原でピクニックをしているような錯覚に陥っちゃいます。
センスのよい器や装飾品、隠すものなどなにもないという潔さを感じるオープンキッチン。すべてが絵になる。
Come Cafe hana*の特徴は「プラントベース」。プラントベースとは、植物由来の食品のこと。環境に配慮した食品や健康によい食品を選びたいというニーズの高まりから、近年注目をあびています。
ここで提供される食事は、小麦と動物性食品を使わないグルテンフリーのもの。野菜も丹波・福知山といった近隣で作られる有機野菜がメインで、どれもいきいきと瑞々しい。 そして、西山酒造場の建物内ということもあり、西山酒造場でお酒を造る過程でできる糀や酒粕などの発酵食品もふんだんに使われている……と文字で見るだけでも胃腸がみるみると浄化されていきそうな感覚。
店主のひとみさんとやすこさんがにこやかに出迎えてくれる。
柔和な笑顔、そしてその裏側には燃えたぎる職人魂を秘めている魅力的なお二方。 会うたびにふわふわとした笑顔で声をかけてあれこれおしゃべりしていくうちに、日頃の生活で凝り固まった心と頭がほろほろとほどけていく。
まずレジにて注文。
この日のランチメニューは
●黒大根と菊芋のトロッとそぼろ煮(生姜糀)
●彩り大根とあやめ雪かぶの柚子塩糀マリネ
スープは
●キノコとお豆いっぱいラクサ(ハラペーニョ塩糀)
●カボチャと小豆の酒粕ポタージュ(三年味噌、酒粕、生姜塩糀) のどちらかひとつをチョイス。
いやー、メニューの文字を見ただけでルンルンしちゃう。おかん歴12年ほどの不肖ウタコ、毎日食事を作っているけどこんなルンルンなメニューは思いつきっこないし、作れっこありません。
ランチのパンも、このショーケースから好きなものをチョイス。いやー、どれもこれも食べたくってひとつに選ぶのはほんとうに難しい。
マリちゃんとあーだこーだとクロストーク。
「最近子どもが学校行ってへんくて」
「うちも親がちょっと大変で」
「そろそろ旅も行きたいよね」
「そういえば最近できたあの店行った?」 などと話がそれたり、戻ってきたり、戻ってこなかったり。こういう会話の妙みたいなものは、私はまだオンラインではうまくつかみきれないところがある。
そんなこんなしているとひとみさんがランチプレートを持ってきてくださる。絵画のような美しさのランチプレートに思わず感嘆。じゃじゃーん。
ひとみさんが丁寧に、ひとつひとつメニューの説明をしてくれる。
「こちらのそぼろ煮はしょうが麹で味つけしています」
「このそぼろは?」
「お肉じゃなくて大豆ミートを使っています」
「ほーーー。このサラダにかかっているピンクのはなに!?」
「これは自家製のビーツドレッシング」「へーーー! しゃれてる!」
聞きなじみのない野菜や調味料にいちいち「へー!」「えええ?」と驚きが止まない。そこらへんのアミューズメントパークよりずっと刺激的でサプライズ溢れるランチ。
選べるスープから、私はラクサをチョイス。 クリーミーだけどスパイスの風味がふんわり香るエスニックなお味。ひとくち飲むとアジアの市場にトリップしちゃうような味わいが広がり、それがCome Cafe hana*の魔法でふんわり優しく包まれていく。
そぼろ煮のなかに今まで味わったことのない食感の何かがある。
マリちゃんと私。もぐもぐトーク。
「ねぇ、なにこれ?」
「わからん」
「検討つかないね」
疑問に思いながらも圧倒的な美味しさの前に、ひとつの極地まで達してしまう2人。
「まぁ材料なんてどうでもいいか」
「うむ、そだね~。美味しけりゃいいのよ。」
美味しいもんはつべこべ考えず味わえばええんです。Don’t think,eat.
あとでひとみさんに聞いてみたら、謎の食感の正体は黒大根とのこと。へーー、くろだいこん! いつもおなじみの大根と似て非なるその食感。ぶにぶにでもしょぼしょぼでもぽよぽよでもない新しい未知の食感。
美味しく頂いたのち、しばしひとみさんとやすこさんとおしゃべり。
おしゃべりしていたら甘いものを頂きたくなるのが世の常。
ここで忘れちゃいけないのがローケーキ。 その名の通りraw=非加熱のケーキ。ナッツを2日ほど浸水させたものをベースに、粉類を使わないケーキ。
この日のローケーキは
●ブルーベリー×いちご×デーツキャラメル×デーツカカオ
●清美オレンジ×デーツキャラメル×デーツカカオ
●有機バナナ・×甘酒デーツキャラメル
●玄米珈琲×酒粕×デーツキャラメル×デーツカカオ の4種類がスタンバイ。選べない、どれもこれも魅力的で困っちゃうね…と二人してうーんうーんと悶絶してましたが、意を決してブルーベリー、お前に決めた。
ひんやりとしたアイスケーキなんだけど、そんじょそこらのアイスクリームとはまったくの別物。深みのあるナッツの味わいとさわやかなブルーベリーの香りが口の中で二重奏。柔らかさとパリパリっとしたトッピングの相性も絶妙でにやけ顔が止まらない。食べたい、けど食べ終わりたくない、ずっと食べていたい、けど減っていってしまうことが哀しい。アンビバレンツさと戦いながらゆっくりじっくり味わいました。天才の仕事だ。
「プラントベースの食事って、どうしても物足りないんじゃなかな?」と思う方もきっと多いはず。わたしも普段、お肉もお魚も食べるので、「体にいいものを食べる」には我慢がついてくるんじゃないかと懸念していた。
でも、Come Cafe hana*のランチを頂くときは、我慢なんてものは一切しなくていい。新鮮で安全な材料を、知識とセンスを持つ料理人が食材の声を聞きながら手を加えていくと、身も心も満足の食事に仕上げてくれる。小麦粉を使わないので胃もたれすることもなく、するすると体にしみこんでいくうえに、しっかりと満足感も得られる。ここでランチを頂くたびにエネルギーがチャージされていくのが身をもってわかる。あー、明日からもがんばれる!
シャイでキュートなんだけど職人気質、マニアックなひとみさんとやすこさんお二人の作る世界が、建物とそこからの景色などと相まって、まるで一冊の絵本のよう。その世界の中で目も胃袋も満たされて、また現世に戻っていくのです。
多肉植物のゆるゆるとした佇まいに癒される
マリちゃんと別れ、車を5分ほど走らせる。
次の目的地はsucculents hitotuki(サキュレンツ ヒトツキ)。
サキュレンツとは多肉植物という意味だそう。その名の通り、多肉植物の楽園かと思うほどずらりとここに集結している。
がらっと戸を開け中に入ると、圧巻の光景が!
ビニールハウスの端から端までびっちりと、多種多様の”かわいこちゃんたち”が所狭しと並ぶ。 店主さんに「何種類ほどあるんですか?」と聞いてみたところ「多すぎてわかりません」とのお答えが。一口に「多肉植物」といえども様々な形と表情があるのね~と見て回るだけで気分が高揚してくる。
サボテンの前に立ち、ちょっと腰を低くして目線を下げると、まるでメキシコの砂漠にでも迷い込んだかのよう。
こんなにたくさん数があるのに、ひとつひとつに種類と金額が記されたプレートが刺さっているのがとても親切。 こんな名前なんだ~とプレートを見るだけでも楽しめちゃう。
ちんまりと並ぶ多肉植物を見ていると、思わずカップケーキに見えてくる。食べてしまいたくなるほど愛らしいカップケーキ。こういう小さくてかわいいものはいつまでも見続けていられますね。
今回私は3点を購入。
緑の小さい球体が連なるグリーンネックレス。
「火祭り」という名の燃え盛るような多肉植物、そして「八千代」という名のバナナを上向きにしたようなぷっくりした多肉ちゃん。
寒さ厳しい北近畿では路地で育てられる植物には限りがありますが、日当たりのいい室内だと、わりとどの多肉植物も元気に育っていってくれています。 成長が楽しみだわ。大きくなれよ~。
110円で買える幸せがここにある
「好きな四字熟語はなに?」と聞かれたら、トップ3には入るであろうこの言葉。そう「工場直売」。
都会でケーキやパスタの食べ放題を展開しているスイパラこと「スイーツパラダイス」。
スイパラの工場がここ市島にあり、なんと直売もしているのです。
先ほどcome cafe hanaでローケーキを頂いたわたくしですが、家で待つ子どもたちにもケーキのお土産を。ケーキはどんな時だってベツバラだもの。
ショーケースの中には10種類ほどのケーキが並ぶ。なんとこちら、どれも1個110円! お財布に優しい、とてもありがたいお値段設定。
ティラミス、ピスタチオのちょっと変わり種から定番のチョコケーキやいちごのショートケーキなどなど。
早速この日の晩御飯のあと、家族みんなでケーキを囲みました。甘いの食べない夫にはドリップコーヒーを進呈(結局わたしが飲んだけど)。
ここでしか買えないあの食べ物
市島といえば、ここも外せません。
清酒小鼓で有名な西山酒造場。
年に数回蔵を開いて出来立てのお酒を販売しているほか、日本酒だけでなく糀や甘酒を使ったお菓子やフェイスマスクなど、オリジナル商品も取り扱っている酒蔵。
ここに来ると私が毎回買うもの、それは酒粕。
酒粕100%、しかも搾りたての新鮮な酒粕はとても貴重。お味噌を仕込むときに酒粕で蓋をしたり、シチューやグラタンなどにちょこっと入れたり、酒粕でクラッカーを焼いたり。
普段の食事のワンポイントとして取り入れてます。
酒粕のほかにも買い物したら、甘糀ヨーグルトをプレゼントで頂いちゃいました。さすが「飲む点滴」と言われるだけあって、運転の疲れもすっと消えていくよう。沁みるわ~。
どのお店もプロのセンスと目利きで、ここでしか味わえない、ここでしか買えないものをまるごと全身で感じた1日。
帰り道に見かけたこの看板の通り、市島に住んだらパワーを浴びてどんどん健康になっちゃいそう。
季節は春目前。明日はどの場所を駆けて行こうかしら。
【施設データ】
店名 | Come Cafe hana* |
住所 | 兵庫県丹波市市島町中竹田4507 |
営業日 | 木・金 |
営業時間 | 11:30 ー 15:00(L.O.) |
URL | https://comecafehana.net/ |
店名 | Succulents HITOTUKI |
住所 | 兵庫県丹波市市島町上竹田 630-2 |
TEL | 0795-71-1763 |
営業日 | 金・土・日 |
営業時間 | 10:00 ー 17:00 |
https://www.facebook.com/succulentshitotuki |
施設名 | 井上商事(株) 兵庫工場(スイーツパラダイス工場直売所) |
住所 | 兵庫県丹波市市島町上田520-2 |
TEL | 0795-85-2566 |
定休日 | 日曜日 |
営業時間 | 10:00 ー 16:00 |
2020/6 OPEN |
店名 | 西山酒造場 |
住所 | 兵庫県丹波市市島町中竹田1171 |
TEL | 0795-86-0331 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 9:00 ー 17:30 |
【今回のお小遣い】
<Come Cafe hana*>
美発酵プチランチ 1200円
ローケーキ 700円
計 1,900円
<井上商事(株) 兵庫工場(スイーツパラダイス工場直売所)>
ケーキ4個
ドリップコーヒー
計532円
<Succulents HITOTUKI>
多肉植物3個
計900円
<西山酒造場>
酒粕1kgX2
甘糀ヨーグルト
計1879円
生きることは旅すること。ハイボール片手に、「通い猫」と「3人組」を愛でながら生きる会社員兼おかん。京都府綾部市在住。
https://www.instagram.com/utaco_1211