うどんと定食が見事に両立
手抜きをしない店主の矜持
「ランチハウス リリィ」の鶏もも焼定食700円
喫茶店のようにも見えるキュートな外観。店名は「ランチハウス リリィ」。現在の場所に移転して約30年経ち、地域密着型の洋食店として人気を博している。
まず、店主の加藤さんにこの記事の掲載許可を願い出た。すると次の返事。
「うちは住宅街にあるし、常連さんが多いやろ。駐車場が少ないので、たくさんのお客さんに来てもらうと近所の人に迷惑がかかるから、記事はあまり載せたくないんやわ」
それでも、すぐあとで「今日食べたものを日記みたいに書くんやね。それなら、載せてもええよ」と快く承諾してくれた。感謝。
リリィの特徴はメニュー構成にある。基本メニュー表にある35品のうち、「うどんもの」が16品とほぼ半分を占めているのだ。洋食屋さんなのに、うどん450円、カレーうどん550円、焼きうどん550円、焼きうどん定食750円など、うどんのメニューが充実しているのはなぜか?その理由は、もともとはうどん店からスタートしたからなのだ。
うどんもの以外では、ハンバーグ定食や700円、豚生姜焼定食800円のような「洋定食もの」が9品。残りはオムライス550円やカレーライス550円など「ごはんもの」だ。このほかに、季節メニューや今月のおすすめメニューなどが壁に貼ってある。うどんと洋定食が違和感なく見事に両立していることが、この店の特徴といえよう。
壁に貼ってあるメニューには、カツのせカレーうどんセット800円、キャベツとツナのサラダうどん600円、サラダうどんトマト味600円など、「ひねり」のきいた創作料理群が並ぶ。
これらのグループは、ピッチャーの球種でいえば変化球のようなものか。
なかでも「カツのせカレーうどんセット」には、強力な吸引力がある。カレーうどんの上にカツがのっている状態を想像してごらんよ。ワクワクするじゃないか。
だが、この日、オレが注文したのは、変化球でなく速球のストレートのほう。洋定食の定番、鶏もも焼定食だ。メインの鶏もも焼に、ごはん、小鉢、漬物、みそ汁がつく。
鶏肉をガシガシ食らうのは久しぶりだ。ぷくっとした鶏ももの表面の”照り”がまぶしい。まるでギラギラした真夏の太陽だ。ああ、戻っておいで、オレの人生の太陽の季節よ。いや、太陽の季節はどうでもいい。
さっそく鶏もも焼に箸をのばして口へ運ぶ。がぶり。ほうほう。鶏肉にはほどよい弾力性があり、タレは甘すぎず辛すぎない絶妙なバランス。ごはんと相性がよい味だ。
だから、ごはんは進むよ、どこまでも。みそ汁、ごはん、鶏もも。リズムを刻んで口の中へにほうりこんでやれば、体内にエネルギーが満ちてくるのがわかる。肉体は正直だ。
パクパク、むしゃむしゃ、うひゃうひゃ。ごっくん。完食。グラスの水を一気に飲み干してゴール。
「鶏もも焼のタレが香ばしかったです。ごちそうさまでした」
加藤さんはカウンター越しに静かに話してくれた。
「うちは冷凍ものや市販のタレなど、いっさい使わないんですよ。鶏もも焼のタレは、醸造所製のたまり醤油をベースにしたものです。見えないところでも、手を抜きたくないですよ」
その言葉から、料理に向かう謙虚さと矜持を感じ取った。一球入魂ならぬ一品入魂だ。
テーブル席で定食を食べていた常連客らしき若い男性が教えてくれた。
「リリィさんの料理はいつ何を食べてもハズレがないんですよ。定番メニューも、新しい創作メニューも全部食べてみるとわかりますよ」と笑顔で、店への愛情たっぷりに。
むむむ。いつ何を食べてもハズレがないから、常連客は安心してこの店へ足繁く通っているのね。加藤さんはそんなファンをとても大切にしている。だから一度に多くの新規客が訪れることを避けたいと考えているのだ。
「じゃあ、また来ます。すいている時間に」
オレは繁盛店の秘訣を少しだけ理解できた満足感を抱え、梅雨空の下へ勢いよく駆け出した。
店名 | ランチハウス リリィ |
住所 | 京都府福知山市昭和新町153-4 |
電話番号 | 0773-22-7603 |
営業時間 | 【昼】11:00~21:30 |
定休日 | 日曜日・祝日 |
※料金と上記データは2020年6月15日時点のデータです。
倉田楽 京都・福知山事務所代表。フリーの編集・ライター。美しいフォームでの「自撮り逆立ち」の追求をライフワークとする、神出鬼没で予測不能の男。