スパイシーで複雑な味に舌が大喜び
また恋がしたくなるようなカレー
「カレーハウス Dr.Spice Lab」スパイシー豚角煮カレー 850円
前夜から「明日のランチはカレーによう」と決めていた。
6月某日、朝から雨。時間は13時過ぎ。「カレーハウス Dr.Spice Lab」に到着した。日本語にすれば「スパイス研究所」という店名をあげているくらいだから、やはりスパイスに一家言ある店主なのだろう。期待感は大きい。
外観はオールドアメリカンを彷彿とさせるログハウス風。建物は高床式になっている。木製階段をトントン上るとウッドデッキがあり、その右手が入口だ。
木製のドアを開けた。えっ? 建物は洋風の造りなのに、店内の玄関スペースで靴を脱いでスリッパに履き替えるスタイルなのね。はい、了解。
天井が高く開放感がある内装だ。窓側の席に座り、すぐにメニューを見る。欧風カレーのグループから、赤ワインで煮込んだ「スパイシー豚角煮カレー」を注文した。辛さは、甘口、中辛、辛口の3つから選べるので中辛を指定した。
こちらのカレーは、「本格欧風カレー」「スープカレー」「つゆだくカレー」「焼きカレー」のグループに大別されている。子ども用に「キッズカレー」もある。
待つこと数分。大柄の店主がみずから「スパイシー豚角煮カレー」をテーブルまで届けてくれた。
初対面。まず、目で食べる。円形の皿の直径はおよそ30cmと大きい。皿の中央に豚角煮がドン、玉子がドン。ルウの色は、ようかんのような濃い茶色。茶色のルウをキャンバスに見立て、白い生クリームで三葉虫のような模様が描かれている。視覚的な効果に富んだ洒落た演出だ。見た目から「熟成」「濃厚」「大人」「一筋縄ではいかない奥深さ」というキーワードが浮かんだ。ドキドキした。
次に、香りを嗅ぐ。脳内で「スパイス祭り」が始まる。インド料理の香辛料の匂いとは一線を画す、漢方薬のような香りが混ざった複雑な香りだ。スパイシーとはこのことか。クンクン。全身が鼻になる。記憶にあるスパイスの香りを思い出してみるが、うまくたぐりよせることができない。
スコップ型のスプーンでルウをすくってひと口。おうおう。少しピリっとする程度のマイルドな辛さで、どちらかといえばフルーティな甘さが勝っている。甘味とマイルドな辛味が舌の上で競争するだけでなく、すぐさま酸味も追いかけてくる。濃厚でいて広がりがある。つまり、コクがある。オレの舌は「うひゃうひゃ~、この味、初体験だぁ~」と大喜びし、脳はヒリヒリした。
3cm角の豚の角煮をスプーンですくいあげ、口に運ぶ。やわらかい。ほぐほぐ。うんうん。濃厚で複雑な味が肉のすみずみまでしみこんでいる。赤ワインでじっくり煮込んである証拠だ。
玉子をスプーンで割った。卵黄がとろ~りと流れてきた。ほうばると、ぬるっとした食感とともに甘味がじーんと口内に広がっていった。
箸ならぬスプーンがどんどん進む。ルウをのせたごはん、角煮、玉子。矢継ぎ早に口の中へ運んだ。数分後、すべてがきれいに胃袋におさまった。完食。複雑な味の余韻をかみしめる。
供された料理の味を表現する際によく用いられる「コク」の正体は、多種の食材を長時間煮込んだり、チーズのように熟成したりすることで生まれる。野菜、フルーツ、ハチミツ、醤油、ワインなど、いろんな味が重なり、カオス化することで料理に厚みや広がりが加わるのだ。店主はスパイスの研究を重ね、試行錯誤を続けてようやくそれを完成させたのだろう。
店をあとにし、雨の国道をクルマで走りながら、「甘い」「辛い」が足し算や引き算だとすれば、「甘くて辛くて酸っぱくて、濃厚でいて広がりがある複雑な味」は連立方程式みたいなものだと考えた。いや、待てよ、「甘くて辛くて酸っぱい。ヒリヒリする、ドキドキする」といえば、そうだ、恋愛しているときの複雑な感情のゆらぎにそっくりではないか。
オレにとっての「Dr.Spice Lab」のカレーは、いずれ「恋しくなるカレー」になるだろう。いや、「また恋愛したくなるカレー」かもしれないナ。車内でひとりほくそ笑んだ。
店名 | カレーハウス Dr.Spice Lab(ドクタースパイスラボ) |
住所 | 京都府福知山市石原2-63 |
電話番号 | 0773-45-8388 |
営業時間 | 【昼】11:00~14:00 【夜】17:30~20:00 |
定休日 | 水曜日 |
※料金と上記データは2020年6月19日時点のものです。
倉田楽 京都・福知山事務所代表。フリーの編集・ライター。美しいフォームでの「自撮り逆立ち」の追求をライフワークとする、神出鬼没で予測不能の男。